コテッジガーデン
さて、イギリスのコテッジといえば、ガーデンがつきものです。「時代荘」にも庭がついており、契約書には庭の手入れという一項が入っていました。わたしは心配になって確かめました。
「あのう、庭仕事はほとんどしたことがないのですが、どういうことをすればいいんでしょうか?」
不動産屋さんは気楽に言いました。
「いや、ほとんど何もないですよ。引越しまでに一度庭師が入ってきちんとしていってくれますし。あとは自然に花が咲きますから。ただ、オーナーさんとしては、夏になって芝が生えてくれば、週に一度でいいから芝刈りをしてほしいということです。芝刈り機もちゃんと納屋にありますから」
まだ秋の終わりで夏まではかなりあるので、まあ何と� �なるだろうと、わたしは引き受けることにしました。
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庭は、柄の先に四角い杓のついた柄杓(ひしゃく)のような形でした。台所の勝手口から、まず太めの柄の部分が伸びていて、柄の先にはかなりのサイズの四角い庭が広がっています。柄の部分には芝生だけでなく細長い小道もついていて、小道のボーダーにはコテッジらしくラベンダーが植えられています。隣家との塀のそばにはバラなどが植えられていました。反対側の塀のそばにはクレマチスやツルバラ。小ぶりの木も配置され、随所にいろんな花が添えられているようです。広く四角い「杓」の部分には、イギリスの庭に不可欠な納屋もちゃんとありました。桃などの花の咲く木々、その根元にもいろんな草が配置されて、きっと春が来ればいろ� ��な花が咲くことでしょう。わたしは納屋を開けて、芝刈り機や梯子、それに、とてもわたしの手には負えないような大きなスコップなどがあるのを確認しました。
春はまず、スノーフレークとスノードロップの花から始まりました。大きな木の陰にひっそりと白い花が咲いているのを見つけた時は感激したものです。それから、家の前のグリーンには色とりどりのクロッカス。我が家にはそのあと水仙が咲き、気がつけば次々と花が咲いていきました。ひっそりと咲くスミレや勿忘草(わすれなぐさ)にサギ草、赤いモントブレチア、可愛いオダマキやケマンソウ。そしてバラ、桃、ボケ、ギボウシ、クレマチス、トラノオ、ツルバラ、サルビア、そして、こちらでは雑草としてみなされている朝顔などなど。
ピーク電圧は何を意味する
そうなると、気になるのは芝刈りのことです。冬には枯れていたような芝も、気がつけばもう伸び出しているではありませんか。納屋にある芝刈り機は電動式ではなく、いくら見ても使い方が分かりません。不動産屋に問い合わせましたが、いっこうに埒(らち)があきません。あせったわたしは、仕方なく、剪定ばさみを購入しました。とりあえず手で刈るしかない!勉強に疲れた日は、時間を決めて芝生をカットしました。とても一度には出来ませんから、まずは細長い「柄」の部分を半分ずつ。大きな「杓」の部分は何等分かにして。けっこう気分転換になるものです。ただ問題は、一回り終わったころには、もう最初に刈った部分が伸びてきていること…
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手で刈っていると、思いがけない方向の2階のベランダから、「頑張ってるね」と声がかかったりしました。庭の芝刈りは、イギリス人男性にとっては週末に必ずやれなければならない仕事で、言うに言われぬ連帯感を呼び起こすものらしいのです。隣人のジャンも塀から顔をのぞかせて「よくやるねえ」と声をかけてくれます。冬のあいだはあんなに愛想が悪かったのに、春になると別人のようです。
「いろんな花が咲くから、楽しくて」わたしは答えます。
「そうだね。春はいいねえ。ところで、その水色の花、きれいに見えるけど厄介者だよ。地下茎でどんどん広がるから、わたしは気がついたら抜いているのよ。でないと、ほ かの花をみな駆逐してしまうからね」
たしかに、そう言われて見てみると、あちこちに広がっています。それなりに可愛いけれど、この花一色なったらあまりにも味気ない。これは大変。それに同時に退治しないとジャンの庭にも広がるだろうし。それで、見かけたら出来るだけ根から抜くようにしましたが、生命力旺盛で、地下茎も深く、なかなか全滅はできませんでした。
そうこうしているうちに、大きな「杓」の方には腰の高さぐらいまで草が茂って、まるでジャングル。ジャングルは嫌いではないけれど、きっと大家さんは嫌がるだろうなあ。でもこれを手で刈るなんて、もはや無理。仕方ないから、一部だけを道のように刈り込んで、「道が出来た」と一人悦に入っていました。
手前は芝生のはずだったが…
我が家の芝刈り機はディーゼル式だと教えられて、ディーゼル油は仕入れたのです。でも、なんどスイッチの紐を引っ張っても、エンジンはウンともスンとも言わないのです! 夏もたけなわになってくると、芝は信じられないような速度で伸びていきます。わたしは、ひたすら不動産屋に「早く誰か来て教えて!」とSOSを出し続けました。イギリス人の事務処理能力は(一般的に言って)なぜかとても低く、粘り強く何度も訴えないと仕事をしてくれないのです。
ある日曜日、やっと大家さん本人が現れて芝刈り機の運転の仕方を直接伝授してくれました。やれやれ。しかも、わたしは論文の締め切りに追われていましたが、大家さんは、ついでに芝生も刈るつもりで来て� �れたのです。恐縮するわたしに、「やれる範囲でやるからね」とのこと。たとえ半分でも刈ってくれたらうれしいと思っていたのに、女性ながらエネルギッシュな大家さんは、ぜーんぶ刈ってくれました。
「さあ、ここまでやっておいたら、来週からは週1回でいいわよ」
長く伸びた芝生を刈るのは大変な作業です。なかなか機械が草をつかみません。しかも、「ジャングル」になったところには、なんと大きなアリ塚が二つも出来ていたのです。土が大きく盛り上がってアリのお城になっていて、わたしも初めて見たときは途方にくれました。それがきれいにのっぺらぼうにされていました。わたしは彼女の体力に感服しました。
とはいえ、内心はあのジャングルが恋しかったのです。でもまあ、あのまま伸びまくったら、おしまいには、庭に住む生きとし生けるもののエネルギーで建物まで呑み込まれてしまうかもしれませんから、これもいたしかたありません。
芝刈り機のエンジンのかけ始めにはコツがいります。それをつかむのに少々時間がかかりましたが、それをマスターすると、まるで自動車でも運転できるようになった気分。いよいよ我が家も、毎週リズミカルに芝刈りの音が聞こえる、正統派イギリスホームの仲間入りを果たしたのでした。
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